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株式会社東京証券取引所委託調査報告書
コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス ・ コ ー ド 等 に
関 す る 海 外 運 用 実 態 調 査
~ 英 国 、 フ ラ ン ス 、 ド イ ツ 、
シ ン ガ ポ ー ル 、 米 国 ~
平成 26 年 12 月 29 日
あらた監査法人
おことわり( Disclaimer ):
本報告書は、株式会社東京証券取引所(委託者)との契約に基づき、あらた監査法人(委託先)が 海外ネットワークのメンバーファームの協力の下で作成したものです。本報告書に記載された特定 の手続きや分析は、2014 年 10 月 31 日までに入手した情報にのみ基づいて実施しています。し たがって、当該日付以降に環境や状況の変化があったとしても、本報告書に記載されている事項 等には反映されていません。また、あらた監査法人の業務は、日本公認会計士協会その他会計基 準委員会によって制定された基準に従って監査、レビュー、証明、その他の保証をしたものではあ りません。
目次
はじめに 5
I. コーポレートガバナンスの論点別まとめ 5
1. 「コンプライ・オア・エクスプレイン」モデル 5
2. 独立取締役 6
3. 取締役会議長と最高経営責任者(CEO)の分離 6
4. 個別報酬開示 7
5. 持ち合い株式 7
6. その他の論点 7
(1)用語の定義の整合―「独立」の意味 7
(2)取締役会の女性比率 8
(3)議決権行使アドバイザー 8
(4)企業トップの姿勢(tonefromthetop) 9
(5)コードの見直し頻度 9
II. 調査の概要 10
1. 調査対象企業の選定と調査手法 10
2. 調査項目とその主旨 11
III. 国別調査結果 13
1. 英国 13
(1)コードについて 13
(2)コードの適用対象会社 13
(3)コーポレートガバナンスに関する開示とアシュアランス 13
(4)調査対象会社(12社) 14
(5)調査結果 15
(6)CG コードの実施(コンプライ)状況に関するモニタリング 22
(7)新 CG コードについて 23
2. フランス 24
(1)コードについて 24
(2)コードの適用対象会社 25
(3)コーポレートガバナンスに関する開示とアシュアランス 25
(4)調査対象会社(13社) 25
(5)調査結果 26
(6)AFEP/MEDEFコードの運用状況に関するAMF調査 34
3. ドイツ 35
(1)コードについて 35
(2)コードの適用対象会社 37
(3)コーポレートガバナンスに関する開示とアシュアランス 37
(4)調査対象会社(12社) 38
(5)調査結果 38
(6)コードの運用状況に関する調査の概要等 42
4. シンガポール 42
(1)コードについて 42
(2)コードの適用対象会社 43
(3)コーポレートガバナンスに関する開示とアシュアランス 44
(4)調査対象会社(5社) 44
(5)調査結果 44
5. 米国 48
(1)取引所規則等について 48
(2)米国証券取引委員会(SEC)による規定 49
(3)取引所規則の適用対象会社 49
(4)調査対象会社(3社) 49
(5)調査結果 50
おわりに 53
本調査報告の特徴 53
日本への示唆 53
コーポレートガバナンス・コード制定後の適切な対応 53
謝辞 54
【参考資料】 各国企業の開示例 55
1. 英国企業の開示例 55
2. フランス企業の開示例 56
3. ドイツ企業の開示例(1) 58
4. ドイツ企業の開示例(2) 59
5. シンガポール企業の開示例 63
6. 米国企業の開示例 65
別添 1: 海外実態調査への協力会社一覧 67
別添 2: 質問書(英語版) 68
はじめに
平成 26 年 6 月に閣議決定された「日本再興戦略 改訂 2014」では、コーポレートガバナンス・コ ード(以下、「CGコード」)の策定が日本産業再興プランの具体的施策のひとつとして示された。 そこでは、多様な関係者による有識者会議がベストプラクティスの内容や OECD 原則を踏まえた CGコードの基本的な考え方を今秋までにまとめ、それを受けて東京証券取引所(以下、「東証」) が具体的CGコードを平成27 年の株主総会のシーズンに間に合うように制定するとともに、当該コ ードに対する「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理 由を説明するか)手法を上場規則に明記するよう、東証に対し金融庁より要請することとされてい る。
本調査は、上記背景のもと、東証の委託により、あらた監査法人が、日本にとって適切な CGコ ードを策定するための参考情報として、海外諸国におけるCGコード等の運用実態を英国、ドイツ、 フランス、シンガポールおよび米国の各プライスウォーターハウスクーパース海外ネットワークのメン バーファーム関係者の協力を得て調査した結果を取りまとめたものである。
I. コーポレートガバナンスの論点別まとめ
1. 「コンプライ・オア・エクスプレイン」モデル
今回の調査結果では、コーポレートガバナンス・コード(以下、「CG コード」)が適用され ている欧州3カ国(英国、フランス、ドイツ)およびシンガポールの会社にとって、「コンプラ イ・オア・エク スプレイン」(原則を実施する か、実施しない場合には、その理由を説明す るか)モデルは、会社の規模・組織・事業等に従ってより柔軟な対応(すなわち、実施しな い理由の説明)が許容されるため、ルールベースのコーポレートガバナンスのモデルより 好ましいとの意見が大多数であった。
大規模会社であっても、状況によってはCGコードの原則等を完全には実施できない場 合もあり、そのような場合に、その理由を説明することによって株主や投資家等のステー クホルダーに納得してもらえる「コンプライ・オア・エクスプレイン」モデルは有効であるとい う意見が 少なからずあ った。例えば、フランスでは、女性取締役の 比率に ついて一定の 数値目標が明示されている(2013年 6月改訂 AFEP/MEDEFコード6.4.)が、これを達 成することは、会社の規模に関わらず難しいという。
比較的小規模の上場会社では、コードの原則等を実施せずに「説明」により対応する項 目数が大規模会社よりも 若干多い結果となった 。その理由として、実施する ための 社内 のリ ソース不足を挙げている事例が見受けられた。また 、(株主ではない)格付会社など
が「実施している項目の割合(%)」だけに関心を示し、実施しないことの正当性に関する 説明の質を考慮していないと思われる点についての不満の声も聞かれた。
2. 独立取締役
各国のコ ードにおいて、独立取締役の定義は様々であ るが 、取締役(ドイツの場合はス ーパーバイザリー・ボードのメンバー)に対して一定の独立性を維持することの有用性に ついては共通の理解と合意が回答から見て取れる。
例えば、フランスのAFEP/MEDEFコードは、独立取締役とみなされるための要件を例示 しているが、これらの要件を満たしていない場合であっても、その正当性が説明できれば、 独立取締役とみなすことも可能であるとしている(2013年 6 月改訂 AFEP/MEDEFコー ド 9.3.)。他国の独立性に関する ルールも同様に柔軟であ り、会社による一定の判断を 許容している。
こ の よ う な 柔軟 な 取 り 決めが あ る 状況 であ っ ても 、 複数 名の 創 業者が ス ーパ ーバ イ ザ リ ー・ボードの メンバーも しくは取締役である ような小規模会社に とっては、一定水準の 独 立取締役数を維持することに困難が伴う場合があるという回答も見受けられた。
また 、大規模会社においても 、予定せず独立取締役が退任した時に 、適時に適切な取 締役候補が見つかるとは限らず、一時的にコードの原則を実施できない状況となる場合 があるという回答もあった。そのような一時的な独立取締役の不在の理由について、英国 の財務報告評議会(FRC)は、「後継者計画の不備」にあるかもしれないと指摘している
1
。
3. 取締役会議長と最高経営責任者(CEO)の分離
全体の回答から、取締役会議長と CEO の分離を求めることの有用性についても共通の 理解と合意が見て取れる。
一方で、特に比較的小規模の会社において、取締役会議長とCEO を分離することに困 難が伴う場合があること、また、大規模会社であっても、急な CEO の退任等によって一 時的に取締役会議長が CEO を兼任するような状況が生じるという回答もあった。前項の 独立取締役の論点同様、常に適切な候補者プールを維持する ことに よって、取締役や CEO の承継計画を策定する必要があるだろう。
1
Financial Reporting Council, “Developments in Corporate Governance 2013 – The impact and implementationoftheUKCorporateGovernanceandStewardshipCodes”(December2013)
4. 個別報酬開示
CG コードの原則等を実施していない説明を開示している項目の中で比較的多い項目 が、取締役報酬の個人別の詳細開示である。CEO については開示していないケースや 総額のみを開示している という回答があ り、特に シンガポールでは、創業者が 経営陣に 参画している企業の場合、最も実施(コンプライ)率が低いコードの項目であるという。
ドイツの 上場会社からは、報酬に 含まれる 年金等の開示情報が 、会計上の 開示情報の 範囲より広いため利用者が混乱する場合があるという指摘もあった。
5. 持ち合い株式
株式の持ち合いに関しては、回答者に対して日本における政策保有目的で議決権を有 する 上場株 式の 具体的な構造 を説明 した 上で質問
2
を行 った が 、ほ ぼ全ての 回答者が
「持ち合いはない」と回答した。一部の持ち合い株式があると回答した会社に詳細を確認 する といわゆる 政策保有目的ではない状況(例:アセットマ ネジャーとして顧客のために 保有する株式)と思われる場合もあった。
仮に、そのような持ち合い株式を保有するとして、投資家からどのようにみられるか、との 質問に対しても、そのような意図が全くないため考えが及ばない、あるいは回答を差し控 える 、という回答が ほとんどであ り、ごく一部の 会社から、潜在的利益相反の懸念から否 定的であるべきという回答や、株式の持ち合いの目的と株主に対する便益を明確に説明 することができるなら問題はないという回答があった。
今回の調査を見る限り、海外企業にとって、一般的には持ち合い株式に対する関心は低 く、そのような投資をしたと仮定した場合の潜在的影響に関する質問に対しても、ごく限ら れた件数の回答しか得られなかった。
6. その他の論点
(1) 用語の定義の整合—「独立」の意味
何をも って「独立」していると判断されるかは、国によって、法令によって異なる場合があ る 。その ような場合、複数の市場で証券が 取引され る企業に とって、すべての 法域での
「独立」ルールに従うことには困難が伴うという。
2質問書(英訳)は別添2を参照。
これから CG コードを策定する日本に対する意見として、「独立」に限らず、法令間の用 語の定義の整合性を図ることが重要であるという指摘があった。CG コード、会社法、商 法、金融商品取引法等で、共通の用語が使用される場合は一定の整理が必要かもしれ ないが 、一方で、厳密な用語の定義づけそのものが原則主義に反するという見解もある ことに留意が必要である。
(2) 取締役会の女性比率
フランスのAFEP/MEDEFコードでは、「2010年の株主総会または会社の株式が規制市 場に上場された日のいずれか遅い日から3年以内に女性比率を少なくとも 20%、6年以 内に女性比率を40%に引き上げてこれを維持することを目標とする」(2013 年6月改訂 AFEP/MEDEF コード 6.4.)と明記されている。
英国では、CG コードに女性取締役の具体的な比率は明示されていないが、ビジネス・イ ノベーション・職業技能省(BIS)が毎年FTSE350企業を対象とした調査報告書
3
を公表し ており、2014 年3月公表の報告書では、対象を FTSE100 に限定すると、女性取締役比 率が2011年の12.5%から2013年は20.7%に向上しているという。BISが設定した英国 の目標は、2015 年までに女性比率 25%を達成することであるとして、明確な「割り当て
(quota)」を示している。
これらは、欧州委員会(EC)が2013 年 11月に公表した、2020年までに女性比率 40% を目指すという動き
4
とも連動している。
今回の諸外国における CG コード運用実態調査において、女性比率の割り当てについ ては、逆に経験と能力のある取締役候補選定にマイナスの影響があるなど、否定的な意 見が 少なからず見受けられたが 、いずれ も現時点で実際の 女性比率が 低いと思われ る 企業からの回答である。
(3) 議決権行使アドバイザー
追加質問項目として、各社が想定するコーポレートガバナンスに関する情報開示の利用 者は誰である かを問いかけた ところ、現在の株主および将来の 投資家である という共通
3”Women on boards – Davies Review Annual Report 2014”(March 2014)
4
欧州議会は、2013 年 11 月 20 日に賛成多数で取締役会の男女比率の格差を改善する EU 指 令案を採択したが、2014 年 11 月時点で理事会による最終決定には至っていない。中小規模の会 社に対しては一定の減免措置が講じられている。特定の割り当て比率を強制するというよりは、「手 続き上の割り当て(proceduralquota)」と表現される手法を採用している。なお、EU 加盟国であるド イツの CGコードには、具体的な女性比率の明示はない。
の 認識が あ った が 、3 番目に 多かった回答が 議決権行使アドバイザ ーであ る 。コ ーポレ ートガバナンス開示に対する主な質問者およびプレッシャーを受ける関係先としても、こ の議決権行使アドバイザーを挙げる回答があった。
一部の回答者からは、これから CG コードを導入する日本に対する助言として、これら議 決権行使アドバイザーとの関係の整理を挙げる意見があった。
(4) 企業トップの姿勢(tone from the top
5
)
複数の回答者は、CGコード実施(コンプライ)の上で重要なこととして、企業トップの姿勢 を挙げた。英国における直近の CG コード改訂では、トップの姿勢を重視するような変更 として、序文に以下の文言が書き加えられている。
「取締役会の主要な役割の1つは、会社の文化、価値観および倫理を確立することである。 取締役が、正しい『トーン・フロム・ザ・トップ』を設定することが重要である。(以下、略)」
(2014年9月改訂「英国 CGコード」(仮訳)序文4.より抜粋)
(5) コードの見直し頻度
ドイツでは毎年 CG コードのレビューが実施される。その結果、必ずしも改訂されるとは 限らないが 、多く の回答者は、コ ードの 改訂は数年に1 度、必要な状況が生じた時のみ に限定すべきであ るという見解であ った 。その理由として、大規模な改訂でなくとも毎年 改訂される場合は企業がそれを適用する準備期間が不足する可能性があること、さらに 十分なベストプラクティスが熟成できないリスクが指摘された。
以上が、当コーポレートガバナンス・コード等に関する海外運用実態調査結果のまとめであり、 次項以下に調査の詳細結果を報告する。
5
「toneatthetop」とも表現される。
III. 国別調査結果
1. 英国
(1) コードについて
英国における CGコードは、主要原則(MainPrinciple)、補助原則(Supporting Principle)および各則(CodeProvisions)から構成され、金融行為監督機構(FCA)の上 場規則(LR9.8.6(5),(6))
6
によって「主要原則」をどのように適用したか、「各則」をすべ てコンプライしたか否か、「各則」をコンプライしていない場合にはその理由の説明等の株 主への報告が要求されている。当該報告は、年次報告書の戦略報告書または取締役報 告書の一部、もしくは独立した報告書として開示されるため、報告期間は会計期間と一 致する。さらに、年次報告書公表前に第 C章「説明責任」の一部の内容について外部会 計監査人によるレビューを受けることが要求されている(LR9.8.10)。
直近では、2014 年 9 月に財務報告評議会(FRC)から CGコードの改訂版が公表され ているが、新コードは、2014 年 10 月 1 日以降開始する会計年度から適用されるため、 本調査に際しては主に2012 年 9 月版の CG コードに対する適用状況がヒアリング対象 となっている。
(2) コードの適用対象会社
EU 規制市場(例:ロンドン証券取引所のメインマーケット)で株式が取引される会社で FCA のプレミアム・リスティングの上場規則が適用される発行体が対象となり、外国会社 も対象に含まれる。EU 非規制市場であるAIM で株式が取引される会社は適用対象で はない。
(3) コーポレートガバナンスに関する開示とアシュアランス
上記(1)に記載の通り、主に CGコードの第 C章「説明責任」の以下の内容について 外部会計監査人によるレビューを受けることが要求される。
a. 各則 C.1.1
6
FinancialConductAuthority(FCA:金融行為規制機構)の上場規則(LR)は、すべての証券に対して適用される 規則と、プレミアム・リスティングに適用される規則およびスタンダード・リスティングに適用される規則に分かれてい る。スタンダード・リスティング規則とはEU指令で要求される最低限の水準を基にしたルールであり、プレミアム・リ スティング規則とは、EU指令で要求される水準を超えるより厳しいルールとなっている(LR1.5.1)。LR の第 9章で は、証券の発行体に対する継続開示要件が規定されている。
「取締役(会)は、年次報告書において、年次報告書・財務諸表の作成における 自らの責務について説明するとともに、年次報告書・財務諸表が全体として公 正でバランスが取れた理解容易なものであると考えている旨、また、株主が会社 の現状・業績、ビジネスモデルおよび戦略を評価するために必要な情報が提供 されていると考えている旨、を記述すべきである。また、外部監査人は自らの報 告義務について記述すべきである。」(仮訳
7
より引用)
b. 各則 C.2.1
「取締役会は、年次報告書において、会社が直面している主要なリスクについて 取締役が厳格な評価を実施したことをコンファームすべきである。取締役は、こ れらのリスクを記載し、これらのリスクをどのような方法で管理し又は減少させて いるかを説明すべきである。」(仮訳より引用)
c. 各則 C.3.1から C.3.7
監査委員会および外部会計監査人に関する項目
(4) 調査対象会社(12 社)
会社名(注)、業種 属性(米国における上場取引所)
1 鉱業 FTSE350
2 鉄鋼 FTSE350(NYSE)
3 陸運業 FTSE350
4 機械 FTSE350
5 情報通信 FTSE350(NASDAQ)
6 小売業 FTSE350
7 保険 FTSE350(NYSE)
8 保険 FTSE350
9 機械 中小規模
10 その他製品 中小規模
11 情報通信 中小規模
12 サービス業 中小規模
(注): 会社名はすべて匿名のため、記載していない。
7
金融庁「コーポレートガバナンス・コード策定に関する有識者会議」第 2回参考資料 2
(5) 調査結果
〈質問項目 1-a: コードの中で実施(コンプライ)している項目〉
英国の CGコードには、第 A 章から第 E 章までの 5 つの主要原則があり、それぞれ の主要原則をより具体化した補助原則と各則によって構成される。
第 A 章:リーダーシップ
(A.1:取締役会の役割、A.2:責務の分担、A.3:取締役会議長、 A.4:非業務執行取締役)
第 B 章:取締役会の有効性
(B.1: 取締役会の構成、B.2: 取締役の任命、B.3:取締役の コミットメント、B.4:取締役の研鑽、B.5: 情報およびサポート、 B.6:評価、B.7: 再任)
第 C章:説明責任
(C.1:財務・業務報告、C.2: リスク管理と内部統制、C.3:監査 委員会および外部会計監査人)
第 D 章:報酬
(D.1:報酬の水準および構成、D.2:手続) 第 E 章:株主との関係
(E.1:株主との対話、E.2:株主総会の建設的な活用)
上場規則の適用を受ける企業は、このうち、各則(provisions)について実施していない 場合はその説明が要求される。調査対象企業12 社(米国 SEC 登録企業3社を含む)の 内、CG コードのすべての各則について報告期間を通じて実施していると回答した会社 は、9 社(このうち 1 社は、米国の取引所規則については遵守していない項目がある旨を 開示)、2 項目以上について実施していない理由を説明している会社が3 社(大規模会 社 2 社、中小規模会社 1 社)である。このうち大規模会社 1 社は、報告対象期間中に改 善をし、報告期間の末日現在では、CG コードのすべての各則を実施していると回答した。
これらの会社によって遵守しない理由が説明されている各則は、以下の通り各社多様 であった。
CG コード
各則内容の一部抜粋
A.2.1. 取締役会議長と最高経営責任者(CEO)の役割は、同一人物が果たすべき ではない。
A.4.1. 非 業 務 執 行 取 締 役 の う ち 1 名 を 筆 頭 独 立 取 締 役 ( senior independent
director)に任命する。
A.4.2. 取締役会議長は、業務執行役員( executives)が同席しない非業務執行取 締役との会合を年に複数回は開催すべきである。
B.1.1. 取締役会は、年次報告書において、非業務執行取締役の うち取締役会が 独立取締役であると考える者を明示すべきである。
B.2.1. 指名委員会が設置されるべきである。
B.3.2. 非業務執行取締役の任命に関する契約条件は、閲覧可能とされるべきであ る。
D.1.1. 業務執行取締役の業績連動型報酬スキームの設計にあたっては、報酬委 員会は本コードの付属文書Aの条項に従うべきである。
D.2.1. 取締役会は、少なくとも3名の(または小規模会社の場合には2名の)独立 非業務執行取締役から構成される報酬委員会を設立すべきである。 D.2.2. 報酬委員会は、全ての業務執行取締役と取締役会議長の報酬を設定する
責 務 を 委 任 さ れ る べ き で あ る 。 同 委 員 会 は 、 さ ら に 経 営 幹 部 ( senior management)の報酬の水準と仕組みについて、提案とモニターを行うべきで ある。
E.2.1. 会社は、すべての株主総会に おいて、事実上異なる案件については別個 に提案を行うとともに、特に年次株主総会においては業務報告と財務報告 に関する決議を提案すべきである。
E.2.4. 会社は、年次株主総会の開催通知および資料が、総会開催日より少なくと も 20 営業日前までに株主に送付されるよう手配すべきである。
当該質問に対して、米国でも株式を上場している会社(1 社)から以下の説明があった。
当社は、UK の CG コードの各則をすべて実施(コンプライ)している。しかし、一部 の NYSE 規則等については遵守していない。NYSE 規則では、企業は全員が独立 取締役から構成される「指名/コーポレートガバナンス委員会」を設置し、取締役会 に対して会社が適用するコーポレートガバナンス原則一式を策定し提案することが 求められるが、当社では、指名委員会は設置しているものの、コーポレートガバナン ス原則の策定と提案は担当しない。これらは、取締役会自身の責務となっている。
米国の証券取引法およびNYSE規則では、監査委員会を設置し、当該委員会が直 接、外部会計監査人の任命、報酬、再任および監督をすることが要求されるが、当 社では、監査委員会は外部会計監査人の任命等に関する提言を取締役会に対し て行うものの、最終的な外部会計監査人の任命責任は株主にある。(注:NYSE 規 則では、外国会社(FPI)は、自国のコーポレートガバナンスのルールと NYSE 規則 の重要な差異について開示した上で、自国ルールに従っているのであれば、NYSE 規則への違反にはならないとされている。)
〈質問項目 1-b: コードを実施(コンプライ)する上での困難について〉
前項での回答を踏まえて、当該質問に対する主な意見は以下の通り。
特段の困難はない。(大規模会社 2 社)
複数の国で上場している場合に、各国のコード等が必ずしも整合していないため、 それぞれの国の CG コード等を実施(コンプライ)することが難しい場合がある。(大 規模会社)
「コンプライ・オア・エクスプレイン」アプローチがうまく機能していると考える。例えば 取締役会の一定比率
8
は女性である ことが勧告され ている場合、仮にボード人数が 10 名だとすると1 名の女性取締役の退任によって一定比率が保てなくなりコードに 反することになる。職務に最適な人材を確保するには時間を要するため、適任者を 探す間のコードを実施できない期間、その理由を説明することで対応できる。(大規 模会社)
主要なチャレンジは文化的なもの かも しれ ない。コ ーポレートガバナ ンスが単なる コ ンプライアンスのエク ササイズとみなされる 文化なら、それ は十分に理解され ていな いことであ り、CG コードが価値をも って受け入れられていないことになる 。この点で 重要なことは、ガバナンスの重要性を示す企業トップの姿勢(tone at the top) であ る。(中小規模会社)
コードで要求される取締役会のサイズと構成が事業規模と釣り合っていない。株式に 関する 開示要求事項と年次報告に 関する 要求事項は、小規模企業にとって不釣り 合いに負担が大きい。(中小規模会社)
コードに記載されているベストプラクティスは、FTSE350 の企業にふさわしいものだ。 報告に 関する 要求事項は、(小規模会社の )投資家のニーズに 対応していないし、 年次報告書の重複する情報量は主要なメッセージの伝達を妨げるほど増えている。
(中小規模会社)
総じて、各則で詳細が求められるほど、(自由度がなくなり)実施することが困難となり がちである。(中小規模会社)
〈質問項目 1-c: 株主等からのプレッシャーの有無〉
CGコードは、厳格なルール集ではなく、良いガバナンスが達成され得るのであれば、 各則を実施する代わりに代替手段に従うことが正当化されるとされる。しかし、一部の大 規模会社からは、説明ではなく、完全な実施(コンプライ)を求められているというプレッシ ャーを感じているとの回答があった。
8
英国の CG コード(2012年 9月版)セクションB.2.において取締役会における性別に言及しているが、女性の具 体的な比率の割り当ては明示されていない。しかし、英国のビジネス・イノベーション・職業技能省(BIS:Business InnovationandSkills)が 2015年までに女性取締役比を 25%とする目標値を設定している。
また、「報酬」(第D 章)に関する開示への関心が高いという回答が目立った。主な意 見は以下の通り。
特段のプレッシャーはない。(大規模会社 2 社)
プレッシャーは感じていないものの、株主やステークホルダーは一般的に「実施(コ ンプライ)することが会社の義務である」という認識をもっていると感じている。この認 識は英国の「コンプライ・オア・エクスプレイン」のアプローチに反するものであり、「コ ンプライ・オア・コンプライ(説明の余地なし、実施するのみ)」でなければならないこ とを示唆していると多くの企業は解釈している。その結果、企業にとってはコードをと にかく実施しなければならないというプレッシャーが増大している。(大規模会社)
各種法令とコードのバランスというプレッシャーもある。これらの法令は必ずしもコー ドと整合していない。例えば、CG コードのC.3.2.では、監査委員会の義務が記載さ れているが、これは米国の NYSE 規則とは整合しないものである
9
。当社は、自国以 外の CG コードまたは同等の規則を実施または遵守(コンプライ)する立場にある。
(大規模会社)
「取締役報酬」が株主にとって最も関心の高い項目のようであるが、規制当局は、コ ードのすべての項目についての実施または十分な説明を期待している。(大規模会 社)
PIRC10などの独立ガバナンス・モニタリング機関、議決権行使アドバイザーがプレッ シャーを与える。機関投資家からはそれほどプレッシャーを感じない。(中小規模会 社)
一般的に 、株主はコ ードの特定項目実施の プレッ シャーを与える ことはないが 、取 締役会の構成、多様性(ダイバーシティ )、報酬に 特に関心が 高いと感じる 。(中小 規模会社)
〈質問項目 1-d: 実施(コンプライ)しない項目がある場合、その理由〉
前述の質問項目1-a に対する回答の通り、調査対象会社のうち 3 社が実施しない項 目についての説明をしている。これらの会社の実施しない説明は、主に①組織的制約
(創業者一族による支配等)に起因するもの、②急な取締役退任等による一時的なもの、
③事業目的に合致しないもの、に大別された。 以下は、当該質問に対する主な回答で ある。
当社は、創業者一族によって支配される企業であり、その組織形態が CG コードの
9
米国証券法および NYSE規則では、監査委員会が、外部監査人の選任、報酬、再任および業務遂行に関する 直接的な責任を負うこととされている。
10
Pension&InvestmentResearchConsultantsLtd.(PIRC)は、欧州最大の独立系コーポレートガバナンスおよび 株主助言サービスコンサルタント。
勧告を実施する上での困難となる場合がある。(中小規模会社)
取締役会議長の独立性について、新旧交代時に一時的に実施ができなかったこと がある。(大規模会社)
予期しない CEO の退任により、短期間ではあるが取締役会議長が CEO を代行し たことにより、コードの勧告が実施できなかった。しかし、十分な説明により投資家か らは、それが受け入れられた。(大規模会社)
取締役会議長と CEOの分離に関して、以前、新CEO の採用時に困難が生じたこ とが あ る 。 それ は 、 適任 者を 見 つ ける に は時 間が かか る た めであ る 。 ( 中小 規模 会 社)
取締役会の有効性評価を実施したが、CG コードの勧告(B.6)を実施するために、 そのすべてを開示することは事業目的に合致しないと判断した。(大規模会社)
〈質問項目 1-e: 実施(コンプライ)しない項目の解消策〉
前項質問項目1-d に関連して、実施しない項目の解消策についての問いには、以下 の回答があった。
CG コードの勧告を実施しない理由は、組織形態によるものであり、今後も実施しな い予定である。そのため、この状況が直ちに解消される見通しはなく、今後も十分な 説明によって対応する。(中小規模会社)
予期せぬ取締役退任時などにおける実施しない状況は、在任期間が長期におよぶ 取締役の退任(注:B.1.1.では非業務執行取締役が 9 年間以上在任する場合には 独立性の判断に影響があるとしている)、新CEOの採用、等々で解決が図れるが、
「コンプライ・オア・エクスプレイン」の制度があれば便利である。(大規模会社)
一般的に は、特定の事業目的に合致しないことに 起因するコ ードの未実施は一時 的 なも の であ る と考え られ る 。( よっ て時間の 経過と とも に 解消 され る 。 )(大規模会 社)
〈質問項目 1-f: コードの中で有用な項目を 3 つ〉
12 社からの回答を大規模会社(金融機関を含む)と中小規模会社に分けてまとめると 以下の通りとなり、大規模会社においては概ね有効とされるコードの各則に共通の見解 があったが、中小規模会社においては各社様々であった。
大規模会社:
以下のコードの項目が有用:
• 独立取締役に関する各則、最低限過半数の取締役は独立非業務執行取締役であ ること等(5 社)
• 取締役会議長とCEO の分離(5 社)
• 取締役の年次改選(1 社)
• 開示の透明性(1 社)
• 監査委員会に対する要求事項、何をモニタリングするべきか(1 社)
• 原則主義であること(1 社)
• (ドイツのような二層構造ではなく)単層構造であること(1 社)
• 報酬に関する各則(1 社)
中小規模会社:
以下のコードの項目が有用:
独立取締役に関する事項(1 社)
取締役会の構成、CEO と取締役会議長の分離(1 社)
取締役会の有効性に関する項目がチェックリストとして活用できること(1 社)
ボイラープレート型にならないコーポレートガバナンスに関する説明、特に戦略報告 書と監査委員会報告書の強化(1 社)
「コンプライ・オア・エクスプレイン」制度―単なるチェックボックス方式よりも意義のあ る解決策を提供する(1 社)
監査委員会の強化(1 社)
ターンブル・ガイダンス
11
に基づくリスク評価と内部統制(1 社)
第 C章「説明責任」の財務・業務報告、リスク管理と内部統制(1 社)
〈質問項目 3: 株式の持ち合いについて〉
日本では、政策保有目的(純投資以外の目的)で議決権を有する上場株式を保有し ている場合は、一定の開示が内閣府令によって求められる。 このような株式持ち合いに ついての見解を求めたところ、金融機関 2 社を除くすべての回答者から、株式の持ち合 いはないという回答を得た。また、当該金融機関における株式保有も、いわゆる政策保 有目的の株式持ち合いには該当しないと考えられる。以下は、ある保険会社からの回答 である。
保険業界では一般的であり問題にならない。英国では 3%以上の投資は報告と開 示義務がある。企業グ ループの観点からは、会社法上、子会社は親会社の株式を 保有できない。(1 社)
11
ターンブル・ガイダンスとは、1999年に公表された「内部統制:取締役のための統合コードに関するガイダンス」の ことであり、英国上場会社の内部統制のベストプラクティスを示すものであった。2005 年 10月に財務報告評議会
(FRC)から改訂版が公表されたが、2014年 9月に新 CG コードと同時に公表された「リスクに関するガイダンス」(” GuidanceonRiskManagementandInternalControlandRelatedFinancialandBusinessReporting(theRisk Guidance)”)に置き換えられている。
仮に持ち合い株式がある場合の反応についての回答は以下の通りであった。
開示次第であると考える。持ち合い株は、複雑な会計処理となり注記が長くなる。そ の 結果、財務諸表に 強い株主だ けが 理解でき る 。さらに 、複雑な関連当事者取引 が増え、最終的な株主とその支配に関する質問が増えるだろう。全体として、すべて の人が理解できる明確な開示をしていると仮定しても、企業の目的が問われるだろ う。もし、その目的が株主の価値を高めるためなら好意的に受け止められるかもしれ ない。(中小規模会社)
反応は肯定か否定のいずれかでその中間はないだろう。ビジネス上合理的な理由 の有無といかに明瞭に説明ができるか次第である。(中小規模会社)
状況次第である 。例えば主要な組織再編を伴う構造改革を理由とするようなもので あれば、株主等から支持されるかもしれない。(中小規模会社)
も し、その ような持ち合いがあ れ ば、直ちに 利益相反の問題が 生じるた めに 認めら れないだろう。当社では、すべての取締役は、取締役会開催に先立ち、あらゆる 潜 在的利益相反について開示することが求められている。(大規模会社)
〈これから CG コードを導入する日本に対する助言等〉
前項までの質問を踏まえて、これから CG コードを導入する日本に対するコメントを求 めたところ、「コンプライ・オア・エクスプレイン」モデルは原則主義に慣れ親しんだ英国文 化のもとではうまく機能しているが、同様のモデルが他の文化圏で同様に有効に機能す るかどうか、懸念する声もあった。
コードでの要求事項は可能な限り単純なものとすべきである。「コンプライ・オア・エク スプレイン」アプローチは英国ではよく機能しており、企業が 予期せぬ事象(例:突 然の取締役退任)に対処するための若干の余地がある点で推奨できるものである。 これらの事象が合理的な時間軸で解消されるなら、そして、株主がその対処方法に 満足するならそれでよい。(大規模会社)
英国は原則主義に慣れ親しんだ文化的背景があり、「コンプライ・オア・エクスプレイ ン」がうまく機能したが、もし、このアプローチを導入するために文化的に様々な変革 が 必要であれ ば、短・中期的に は CG コード導入の効果は得られ ないかも しれな い。(中小規模会社)
情報開示が多いことは競合他社が商業的に重要な当社の情報にアクセスができる ことではあるが、その結果、優位性を失うということを意味するものではない。企業の 機密は保護されるべきであり、事業のガバナンスに関するより詳細な開示要求は、コ ア と な る 商 業 上 の 機 密 を 公表 す る こ と な く 達 成 さ れ な け れ ば な ら な い 。 ( 大 規 模 会 社)
非財務の主要な事業指標の開示は徐々に重要性を増している 。戦略、パフォーマ
ンスターゲッ ト、従業員との関係においては企業文化をすべてのステークホ ルダー に伝達することが重要だろう。(大規模会社)
株主との プロアク ティブなコミュ ニケ ーションは、株主との利害対立を避け透明性を 高める上で重要である。(大規模会社)
ガバナンスの報告に関する規則を策定する前に、投資家のニーズを明確にし、これ らガバナンスに関連する主要なメッセージが伝達される順番と頻度を検討すべきで あろう。(中小規模会社)
以上の通り、CGコードが導入されて20 年以上の経験を有する英国においては、CG コードを肯定的に受け止め有効に活用しようとする企業側の強い意識が見て取れた。
(6) CG コードの実施(コンプライ)状況に関するモニタリング
FRCは、2011 年から毎年 CG コードとスチュワードシップ・コードの適用と影響に関す る年次報告書
12
を公表している。直近では、2013 年 12 月に当該報告書が公表され、CG コードに関しては、実施(コンプライ)状況および年次報告書における報告状況について のレビュー結果が取りまとめられている。
CGコードの実施状況に関しては、過去から引き続き最も実施率が低い項目として、 B.1.2.(比較的小規模な上場会社を除き、少なくとも半数の取締役会メンバー(取締役会 議長を除く)は、取締役会が独立取締役と判断した非業務執行取締役から構成されるべ きである)が挙げられている。 実施率は、FTSE350 全体で 87%(前回調査では 81%)と いう。 例えば、取締役会議長と CEO の分離に関するコード各則 A.2.1.の実施率が 94%であること
13
と比較すると確かに低い。
この B.1.2.を実施しない理由に関して、その報告状況のレビューを FRCは同時に実 施しており、たとえ一時的に実施しない状況であるとしても、その理由は CG コードの勧 告より有効と考える代替的手段を講じているというよりは、取締役会メンバーの「後継者の 計画の不備」(poorsuccessionplanning)かもしれないと指摘している。 なお、この「後継 者の計画」については、2014 年の重点項目として FRC が各社の対応をレビューすること になっている。
12
FRC, “Developments in Corporate Governance 2013 – The impact and implementation of the UK Corporate GovernanceandStewardshipCodes”(December2013)
13
GrantThornton調査による。
http://www.grant-thornton.co.uk/Documents/FTSE-350-Corporate-Governance-Review-2013.pdf
(7) 新 CG コードについて
FRCは、2014 年 9 月 17 日に新 CG コードを公表した。主な改訂点は以下の通りであ り、2014 年 10 月 1 日以後開始する会計年度から適用される。(以下は、FRC の同日付 プレスリリースからの抜粋)
① ゴーイングコンサーン、リスク管理および内部統制
企業は、なぜ継続企業の前提に基づく会計を採用することが適切であると考え るかを言明( state)し、さらに 、継続企業で有り続けることについての重要な不 確実性を識別しなければならない。
企業は、主た るリ スク を十分に評価し、それ らのリ スクにどのように 対処しリスク を低減するか説明しなければならない。
企業は、現時点の財務状況、主たるリスクを考慮した上で、債務を弁済し事業 を継続することができるとの合理的な期待を有しているかどうかを言明し、当該 言明がカバーする期間を特定し、それが適切である理由を説明しなければな らない。
企業は、リ スク 管理と内部統制システムをモニタリングしなければならない。少 なくとも1年に1回、それらの有効性をレビューし、当該レビューについて年次 報告書で報告しなければならない。
企業は、リスクと存続可能性(viability)の開示をどこで行うか選択できる。戦略 報告書で開示する場合は、2006 年会社法の「セーフハーバー」条項が適用さ れる。
② 報酬(remuneration)
報酬に 関する 方針が 長期的な企業の 成功に 沿って設計され ているかどうか、 および、その責任が報酬委員会にあることを確認することにより重点が置かれ ている。
企業は、それが 適切な場合、変動型報酬を回収(取り戻すこと)また は留保す る ことができ る取り決めとする べきであ り、繰延報酬について権利確定期間や 保留期間の導入を検討すべきである。
③ 株主とのエンゲージメント(shareholder engagement)
企業は定時株主総会の結果を公表する際に、相当な割合の株主が議案に反 対票を投じた場合、企業が株主とどのようなエンゲージメントを目指しているか、 説明をしなければならない。
④ その他
取締役会による「企業トップの姿勢(tonefromthetop)」の重要性を強調、他。
なお、この新 CGコードとともに、CG コードの第 C章「説明責任(accountability)」適 用上の取締役に対する指針として「リスク管理、内部統制ならびに関連する財務・事業報 告のガイダンス」がFRCから公表され、リスク管理に関連するベストプラクティスを提供し ている
14
。
2. フランス
(1) コードについて
フランスでは、フランス私企業協会(AFEP)およびフランス企業連盟(MEDEF)の作業 部会が策定したAFEP/MEDEF コードに加えて、主に中小規模会社向けのMiddlenext コードがあり、会社は、OECD の多国籍企業向けガイドライン
15
等も含めた複数のコード から最適なコードを選択してレファレンス・コードとすることができる。AFEP/MEDEF コー ドは 1999 年に初めて制定され、その後、数回の改訂を経て、現在参照されているものは 2013 年 6 月版である。一方、Middlenext コードは、2009 年 12 月に初めて公表され、現 在に至る。
フランスでは、会社機関として取締役会を設置する単層構造の株式会社、マネジメン ト・ボードとスーパーバイザリー・ボードの二層構造の株式会社、そのほか、株式合資会 社(société en commandite par actions)等があるが、AFEP/MEDEFコードおよび Middlenext コードは、いずれも主に単層構造の株式会社を想定しているため、その他の 構造の会社は適宜調整をする必要があるとされている。
また、フランスでは、商法典(L.225-37 または L-225.68
16
)規定により、取締役会議長
(またはスーパーバイザリー・ボードの議長)がコーポレートガバナンスに関する事項を含 む報告書を作成し、年次の法定提出書類(registrationdocument
17
)に含めなければなら ない。したがって、CG コード実施(コンプライ)状況は、会計年度と同一の期間について 報告される。また、当該報告内容のうち財務報告に関する内部統制およびリスク管理に 関する項目は、商法典(L.225-235)に従って法定監査人(statutoryauditor)の保証
(attest)を受ける必要がある。
14
同時に、銀行向けには、”GuidanceforDirectorsofBanksonSolvencyandLiquidityRiskManagementandthe GoingConcernBasisofAccounting”が FRC から公表されている。
15
“OECDGuidelinesforMultinationalEnterprises(2011Edition)”を指す。次のリンク先から入手可能である。 http://www.oecd.org/daf/inv/mne/48004323.pdf
16
L.225-37は、取締役会単層構造の会社、L-225.68 は、マネジメント・ボードとスーパーバイザリー・ボードの二層 構造の会社を対象としている。
17
英語名称をアニュアル・レポート(annual report)とする会社もあるが、フランス語では「Document de référence」。 AMFが推奨する様式の年次報告書一式。本報告書では「法定提出書類」とする。
(2) コードの適用対象会社
AFEP/MEDEF コードとして取りまとめられた「勧告(recommendations)」は、EU 規制市 場において証券の取引が認められている会社を念頭に置いて策定されたものであり、そ のような会社
18
が商法典(L.225-37 または L-225.68)に従って開示をする際のレファレン ス・コードとすることができる。
それ以外の市場で取引される会社や非上場会社についても、このコードの全体または 一部分を採用することが推奨されているが、強制はされていない。
一方、Middlenextコードは、その序文に記載されている通り、EU 規制市場では株式 が取引されていない会社、特に、その中でも多国的な取引所(Alternext 等)において株 式が取引されている会社や、非上場企業が採用することも可能かもしれない、とされてい る。コーポレートガバナンス、内部統制、リスク・マネジメントに関して取締役議長による報 告書を作成している中小上場会社は、商法典(L.225-37 または L.225-68)における「企 業の代表団体が策定したコーポレートガバナンス・コード」として当該コードを参照するこ とができる。
(3) コーポレートガバナンスに関する開示とアシュアランス
上記(1)に記載の通り、取締役会議長の報告書に含まれる CG コードに関連する一部 の内容について、法定監査人の保証(attest)手続きを受けることが要求される。本報告 書の【参考資料】2.に開示例を示している。
(4) 調査対象会社(13 社)
会社名(注 1)、業種 属性/適用コード
1 建設業 CAC40(注 2)、AFEP/MEDEF コード 2 輸送用機器 CAC40、その他 (注 3)
3 石油・石炭製品 CAC40、AFEP/MEDEF コード 4 ゴム製品 CAC40、AFEP/MEDEF コード 5 その他製品 CAC40、AFEP/MEDEF コード 6 電気・ガス業 CAC40、AFEP/MEDEF コード
18
ここでの会社には、public limited companies (sociétés anonymes) (取締役会設置形態もしくは、スーパーバイザリ ー・ボードとマネジメント・ボードの二層構造の双方)および partnerships limited by shares (société en commandite paractions)を含む。(AFEP/MEDEFコードの「序文」より)
7 銀行 大規模(注 4)、AFEP/MEDEFコード 8 保険 CAC40、AFEP/MEDEF コード
9 保険 コンパートメントA(大規模)、AFEP/MEDEFコード 10 情報・通信業 コンパートメント C(小規模)、AFEP/MEDEFコード 11 その他製品 コンパートメントB(中規模)、Middlenext コード 12 電気機器 コンパートメント B(中規模)、Middlenext コード 13 電気・ガス業 コンパートメント C(小規模)、Middlenext コード
(注 1): 会社名はすべて匿名のため、記載していない。
(注 2): CAC40 指標銘柄はすべてコンパートメントAに属する。
(注 3): オランダ籍のため、オランダの CG コードを適用している。
(注 4): 同社は、株式は公開されていない債券発行体。
(5) 調査結果
〈質問項目 1-a: コードの中で実施(コンプライ)している項目〉
AFEP-MEDEF コード:
当該コードは、25の主題に関する 66項目の勧告(recommendations)から構成され る。25 の主題には、取締役会に関する項目、取締役会の委員会(監査委員会、任 命/指名委員会、報酬委員会)に関する項目および取締役に関する項目が含まれ る。例えば、25 番目の主題は、「本勧告の履行」であり、会社による「コンプライ・オ ア・エクスプレイン」ルールの実施(25.1.)、コードの実施のモニタリングを行うCG上 級委員会(25.2)、という 2 つの勧告が示されている。
Middlenextコード:
主 な 内 容 は 、 1 . 執 行 権 限 ( Executive power ) 、 2 . 「 監 督 」 権 限 ( “ Supervisory ” power)、3.「株主」権限(“Sovereign” power)、の 3 項目から成り立ち、さらに各項 目は、「留意事項(points to be watched)」および「勧告(recommendations)」から構 成される。この うち、「勧告」については「コンプライ・オア・エクスプレイン」を適用す る必要があり、取締役会議長の報告書において、どのようにこれらの勧告を実施(コ ンプライ)したか、実施しなかった場合はその理由を明確に示さなければならない。
調査対象 13 社のうち 4 社がユーロネクスト市場のコンパートメントBまたはCに属する 中小規模会社であり、このうち、3 社がMiddlenext コードを参照し、1 社(コンパートメント C)がAFEP/MEDEFコードを参照している。また、Middlenext コードに加えて、AMF(フ
ランス金融市場庁)が 2013 年に公表した「コーポレートガバナンス及び執行役報酬に関 する報告書」
19
における中小企業向け勧告事項を考慮している会社が 1 社含まれている。 さらに、調査対象会社のうち 1 社はオランダ国籍会社であり、オランダのコードを参照し ていた。
AFEP/MEDEF コードを適用している9 社のうち、すべての勧告を実施している会社が 1 社(大規模)、実施しないで説明する項目が1 項目の会社が1 社、2 項目の会社が1 社、3 項目以上について実施しない説明をしている会社が6 社であった。
一方、Middlenext コードを参照している 3 社は、すべての勧告について実施している会 社が1 社、実施しない項目が1 項目の会社が 1 社、3 項目の会社が2 社であった。
AFEP/MEDEF コードおよび Middlenext コードを参照している企業は、特に以下の 項目を意識している。(大規模会社複数)
・取締役の独立性(6 社)
・取締役報酬の透明性(5 社)
・各種委員会の設置(監査、任命/指名、報酬)(5 社)
・その他の委員会
20
の設置―戦略/持続的成長委員会(3 社)、
原子力委員会(1 社)、ガバナンス委員会(1 社)、リスク管理委員会(1 社)、 倫理委員会(1 社)
・取締役の個人別実績評価(1 社)
・取締役会の男女比率(ある会社では 35.7%を達成)
・「sayonpay
21
」(1 社)
AFEP/MEDEF コードに加えて、マネージング・パートナー
22
の任期等、自社独自の 追加的ルールを導入している。(大規模会社 1 社)
ほとんどすべてのMiddlenext コードの勧告を実施(コンプライ)している。(中小規 模会社 3 社)
〈質問項目 1-b: コードを実施(コンプライ)する上での困難について〉
会社の組織形態が単層構造の取締役会設置株式会社(société anonymes)でない場 合にAFEP/MEDEFコードの要件をそのまま満たすことが困難であるとする意見が 2 社
(いずれも大規模会社)からあった。その他の主な意見は以下の通りであった。
19
AMFが 2013年 10 月 24日付で公表した、“2013ReportonCorporateGovernanceand Executive Compensation”を指す。
20
コードで設置することが勧告されていない任意の委員会を含む。
21
企業経営者に対する「報酬の支払い(PAY)」に関して「株主が意見を言うこと(SAY)」を認め、経営者報酬に関する 議案を株主総会に諮り株主の投票の対象とする制度をいう。
22
日本の会社でいえば、役員クラス。あるフランス企業では、CEO が ManagingGeneralPartnerである。
AFEP/MEDEF コード:
特段の困難はない。(大規模会社 4 社)
「コンプライ・オア・エク スプレイン」は、ひとつの ルールがすべての 会社に合致する わけではないため、よい妥協策である。CG上級委員会(High Committee)が発行し たコンプライアンス・ガイダンスは、(CG に関する)明確化に関する当局との対話の 一例である。(注:CG 上級委員会には、AFEP/MEDEF コードを参照する企業がメ ンバーとして参加している。)(大規模会社)
当社は、10 年以上前に AFEP/MEDEF コードを早期適用した経験をもち、当局お よび他の ステーク ホ ルダー(議決権行使アドバイザー、株主、顧客)等関係者間の 調整役としての役割を果たした。このような相互連携によって、それぞれが納得した 上での同意に至ることができた結果、コード適用プロセスもスムーズなものとなった。
(大規模会社)
AFEP/MEDEF コードは取締役会の合議制(a collegial body)を尊重する点におい て、勧告の適用を容易ならしめたと考える。(大規模会社)
今後、困難となることが想定されるものとして、「Say on Pay」が挙げられる。EU 規則
23
に従う必要がある。(大規模会社 2 社)
主に組織形態による困難性を指摘するコメント:
当 社 は フ ラン ス法の も とで分 散所 有型 会社 とみ な され 一定の 法令に 従 う必 要が あ る。大規模な内部監査を実施する中でガバナンスについても留意しており、内部サ ービス部門の倫理規範も策定している。特段の困難がないとはいえ、取締役会議長 の報告書に含まれるガバナンス関連の報告事項の作成に時間がかかることについ ては認識しており、約20名のチームで年間3~4 カ月のリソースを費やして同報告
(財務報告のレビューを含む)を作成している。(大規模会社)
AFEP/MEDEF コードの適用にあたり、長い時間をかけてコンプライアンス手続に取 り組んだ 。最も 困難であ った 点は、フランスの 株式合資会社(SCA)としての当社の 構造にコードを適用しなければならなかったことである。(大規模会社)
その他のコメント:
特に報酬など、他社とのベンチマークの比較をする上で、国内の同業会社数が限ら れているため、有効な比較ができない。(金融機関)
Middlenext コード:
23
EU指令の改訂案を指す。http://europa.eu/rapid/press-release_IP-14-396_en.htm
一定数の独立取締役の確保と、能力と経験のある取締役の選任の両立は、特殊な 業界に属する当社にとって極めて困難である。例えば、筆頭取締役として適任の有 能な人材が顧客から得られる 場合もあるが 、その場合は一般的には独立要件を満 たさない。
取締役の「独立」要件は、Middlenext コードに規定されておらず、各社において設 定する責任を有するが、この自社固有の独立性要件の妥当性を議決権行使アドバ イザーが否定することがある。
Middlenext コードでは、取締役の 任期について特定の年数を強制していないもの の、業界特有の経験を習得し、会社の戦略を理解するためには一定期間を要する ため、当社では取締役の任期を 6 年としている。しかし、(長すぎるというプレッシャ ーがあるため)最近 4 年間とすることを決定した。
会社規模に応じて取締役数を4名としているが、この人数ではMiddlenextコードで 推奨される複数の委員会設置は困難である 。そこで、本来、委員会の責務とされる ものを取締役会が担当している。
〈質問項目 1-c: 株主等からのプレッシャーの有無〉
規制当局からのプレッシャーの説明として、AMF(フランス金融市場庁)による「Name andShame」方式のレビュー(注:「コンプライ・オア・エクスプレイン」の適用が不十分とみ なされる具体的企業名をAMF が報告書の中で公表)(本報告書の(6)を参照)を具体的 項目として挙げる会社が2 社あった。
AFEP/MEDEF コード:
プレッシャーはない。(大規模会社 2 社)
特定のステークホルダーからのプレッシャーはないが、期待されていることは感じ る。特に以下の関係者からの注目が高いことを認知している。(大規模会社 4 社)
・規制当局(AMF)/CG上級委員会(4 社)
・議決権行使アドバイザー(3 社)
・投資家(1 社)
・社会的責任投資ファンド(1 社)
・ステークホルダー全般(1 社)、一般大衆(1 社)
特段のプレッシャーはないが、議決権行使アドバイザーの存在により、株主との直 接的対話が難しくなってきていると感じる。同アドバイザーの存在は少数株主および 機関投資家にとって重要なものとなりつつあるが、これは適切な方向に向かっての 変化であるとは思えない。(中小規模会社 1 社)
AMF による「NameandShame」方式のレビュー導入にプレッシャーを感じる。(大規 模会社 2 社)
Middlenext コード:
プレッシャーはない。(中小規模会社 2 社)
議決権行使アドバイザーからの圧力、報酬(ストックオプション含む)に対する規制 当局からの圧力を感じる。(中小規模会社 1 社)
〈質問項目 1-d: 実施(コンプライ)しない項目がある場合、その理由〉
AFEP/MEDEF コード:
主に組織形態が実施(コンプライ)しない理由である。(大規模会社 2 社)
独立取締役―半数が独立取締役とすべきことが勧告されている
24
が、37%しか独立 していない。しかし組織形態に沿ったものであり妥当である。
「独立」要件―取締役任期(12 年)の上限がコードで明示されているが、他の要件が 優先されるべきと考える。
各取締役会メンバーの評価―取締役会が「合議制」の協力関係に基づく組織であ るという理解から、当該規定は実務的ではないと判断した。
以下の5 項目について実施していない。(大規模会社)
独立取締役の任期上限 12 年
独立メンバー要件(委員会について一定比率が求められる)
監査委員会による財務諸表レビューの十分な期間
25
業務執行取締役の兼業禁止
業績連動型株式報酬において「一定の株式購入を条件とすること」
(理由:すでに相当数の株式購入条件が付されているため、追加購入は不要と判 断)
会社の規模と照らし合わせて妥当とは考えられない勧告について、実施しないで説 明することとしている。具体的には以下の2 項目:(中小規模会社)
各取締役の個別評価―小規模(取締役数 3 名)であることから、有効な手段ではな いと判断
取締役会議長とCEO の分離―当社の歴史(取締役会議長兼 CEO が創業者)か ら、この勧告については実施しないことを取締役会が決定した。しかし、本件につい
24
AFEP/MEDEFコードの 9.2では、「支配株主のいない分散所有型の会社においては取締役会メンバーの半数 を独立取締役が占めるべきである」とされる。
25
AFEP/MEDEFコード 16.2.1.では、取締役会による審査の前に 2日間以上が必要とされている。